教育内容

大学院では、学部段階での基礎的学習内容を発展させ、教育内容を強化します。また、都市安全研究センターと有機的に連携した実践的・学際的で国際的な教育体制を整えています。学部と同様に、伝統的な土木工学の科目を基盤として、市民工学の価値目標を達成するための基礎となる科目を用意しています。論文作成過程では、研究に対する方法論を習得し、未知なる課題を解決する能力を養います。

市民工学専攻前期課程では基礎的学習内容を発展させ、自然災害やテロ・事故などの社会災害に対して安全な都市・地域の創造と、自然と共生する都市・地域を目指した環境の保全と都市施設の維持管理・再生に関する内容を学びます。後期課程では実践的・学際的で国際的な人材養成のため、学部および博士前期課程の教育内容を発展的に高度化させた科目を学びます。

シラバスはこちら(神戸大学シラバス)から検索可能です。博士論文・修士論文の題名は工学研究集報に掲載されています。

開講科目(博士課程前期課程)

  • 応用数理計画 Applied Mathematical Programming
  • 応用ミクロ経済学 Applied Microeocnomics
  • 社会統計学 Social Statistics
  • 固体計算力学Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ Computational Mechanics Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ
  • 岩盤工学特論 Advanced Rock Mechanics
  • 地震工学特論Ⅰ, Ⅱ Advanced Earthquake Engineering Ⅰ, Ⅱ
  • 橋工学特論 Advanced Bridge Engineering
  • コンクリート工学特論 Advanced Concrete Engineering
  • コンクリート構造工学特論 Advanced Mechanics of Structural Concrete
  • 土質力学特論Ⅰ, II Advanced Soil Mechanics Ⅰ, II
  • 地盤材料学特論 Advanced Geomaterial Mechanics
  • 都市地域経済学 Urban and Regional Economics
  • 陸水域の環境 Environmental Limnology
  • 流域システム Hydraulic System of River Basins
  • 沿岸海洋学 Coastal Oceanography
  • 地盤環境学特論 Environmental Geotechnics
  • 地盤防災学特論Ⅰ, II Advanced Course in Ground Disaster Prevention Ⅰ, II
  • 地盤応用力学特論 Advanced Applied Geomechanics
  • 土木技術英語 English for Civil Engineering
  • 水文学と地理情報 Hydrology and GIS
  • 気候システム論 Climate System
  • 特別講義Ⅰ, II Advanced Lecture Ⅰ, II

国際交流

市民工学科・市民工学専攻では、アジア、アフリカ、中米地域などから多くの留学生を受け入れています。また本学科・専攻からは、毎年数名の学生が欧州・太平洋地域の大学に留学しています。また最近では、学生が米国、ヨーロッパの企業等の海外インターンシップにも参加しています。教員の国際交流活動が活発なことはいうまでもありませんが、学生の国際会議での発表も活発化しています。また米国、フランス、韓国などの大学等研究機関との国際共同研究やアジア地域などでの調査研究活動も活発に行われています。

飯塚研究室のタイ東北部
塩害現場調査
(平成17年10月13日から20日)

調査メンバー:神戸大学・飯塚教授,東京工業大学・
ティラポン助教授,神戸大学修士課程学生3名

塩害は海浜部ばかりの問題ではありません。内陸部、たとえばユーラシア大陸の内陸部でも、大陸移動前の大昔には海浜部であったため、地下深くに岩塩層が堆積していることが多く見られます。そのため地下水には、希薄であるけれども塩分が含まれています。降雨、蒸発と地表部における植生による水分の保有量、河川への流下とが、太陽エネルギの下でバランスがとれていれば、地下に溶解している塩分は地表に現れることはありません。
しかし、一旦、過剰伐採などによって、そのバランスが崩れると、地表からの水分蒸発が、地下からの水分を吸い上げ、希薄な塩分も、地表近くに至ると脱水によって高濃度化し、最後には塩の結晶として、地表に析出します。一度、塩が析出すると、もはや植生や作物は育たなくなってしまいますが、これを一次塩害といいます。さらには、塩分を含んだ地下水を人為的に汲み上げて、製塩を行なっている地域もあります。塩田で不要になった水がそのまま灌漑用水路に排水されることが多く、そのため近隣の水田に深刻な塩害をもたらすことがあります。これを二次的塩害と呼ぶことにします。今回の調査では、タイ東北部をフィールドに、この一次的塩害と二次的塩害とを実地調査し、実際に行なわれている対策などについて、現地の専門家と意見交換を行ないました。今後は、問題点の抽出とその解決策を共同して検討していく予定です。


コンケーン 郊外 International Training Center for Agricultural Department でのミーティング
タイ東北部の地質状況と堆積環境の説明を受ける。

サコナコーン近郊の昔ながらの塩田・製塩現場を見学。塩分を含む地下水を汲み上げて、製塩を行なっており、
地下水汲み上げと岩塩層の溶解に伴って、地表面の陥没が生じている。さらに、塩田からの不要水を灌漑用水路に排水しているため、近隣の水田に塩害をもたらしている。

バンコク National Center for Genetic Engineering and Biotechnology (タイ科学技術省)を訪問してミーティング。

芥川研究室の海外実験

芥川研究室では、2005年8月にシアトルにあるワシントン大学との共同研究に参加するため現地に2週間滞在し、実験、打ち合わせなどを行いました。ワシントン大学と神戸大学は歴史的にも深い関係があり、現在もさまざまな分野で研究協力、学術交流が行われています。今回、我々は地震時に高層ビルの鉄骨構造がどのような変形プロセスを経て破壊に至るかを研究している Roeder教授のチームに合流し、特殊な装置を使用して応力計測を実施しました。この装置は鉄が有する磁気異方性の原理を応用して表面の応力を測定する非破壊計測装置です。他の方法では不可能な場合においてもこの装置では比較的簡便に応力計測が可能となるので、この装置を用いた計測結果をRoeder教授のチームが得た実験結果と合わせて総合的に分析し、有益な研究成果を得るために今後も協力を続けていく予定です。

今回、シアトルを訪問した学生4名は皆初めてのアメリカ訪問でした。ワシントン大学の広大で美しいキャンパスに感動しながらも、現地スタッフ&大学院生らと協力して実験などを行い充実した時間を過ごしました。英語の重要性を改めて感じただけでなく、国際的な時代に生き抜くためにどのような準備が必要かについて真剣に考えるきっかけになったようです。


ピサの斜塔の安定化のための地盤調査

Roeder 教授研究室の大学院生(背後)と共同して作業を行う学生

ワシントン大学工学部土木環境工学科構造実験室にて記念撮影。
後列中央が Roeder 教授.右端は Stanton 教授。

2週間の滞在では実験室などで様々な学生,スタッフと出会います。
数日後にはすぐに友達の輪が広がります。

研究トピックス

地盤災害から命を守る!

1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、2014年の広島市の土砂災害、我が国は、地震や豪雨による地盤災害の危険に絶えず直面しています。 頻発する地盤災害から貴方の命を守る!
貴方にとって大切な人々の命を守る! そのために、巨大地震が来ようが、大雨が降ろうが、自然の脅威に負けない街!
このような湧き出る思いを胸に、我々の宿命を私達の使命に変える挑戦を続けています。
都市化が進むと、雨水が地盤に浸透する量が減るため、下水管の中の水が噴水のように地上に溢れ出す、鉄砲水が人々を襲う。
このような都市型水害を減らすために、道路の側溝沿いにたくさんの浸透枡を設けて、雨水を地盤内に強制的に浸透させる方法があります。
そこで、近隣の自治体と連携し、雨水浸透適地マップを作成しています。
2008年の都賀川での痛ましい事故を決して忘れないためにも。(片岡研究室)



都市型水害軽減のための
雨水浸透適地マップの作成

コンクリート構造物の性能の評価

人々の移動や物流の社会的基盤となる道路や鉄道などの構造物には、コンクリートで造られたものがあります。
これらの構造物は簡単には取り替えることができませんので、新しく造った構造物が安全で、人々が安心して使うことができるのはもちろん、古くなってもその「性能」を発揮させつづける必要があります。
コンクリート構造物の「性能」、例えばどの程度の力に耐えることができるか、また大きな力や変形にどのように抵抗するかを詳しく知ることが、安全・安心を実現するために重要です。
われわれの研究では、画像解析により平面領域を対象としたひずみ計測を行い、コンクリートのひび割れや圧縮ひずみが卓越する領域を特定し、それらを詳しく分析して構造部材が破壊に至るまでの挙動と関連づけることに成功しています。
そのとき、一般的な高解像度デジタルカメラのほか、急激に進展する部材破壊では高速度カメラを使用したり、非常に微細なひび割れにはマイクロスコープを利用したりと、状況に応じた測定を行います。
これらの一連の研究を通して、社会基盤構造物の未来を想像し、創像する(未来のイメージと新たなビジョンを示す)ことを目指します。(三木研究室)



マイクロスコープを用いた
コンクリートのひび割れ観察と画像解析結果

海を理解して沿岸域をまもる

我が国の国土は急峻であるため、人口や資産の大部分は標高の低い沿岸域に集中しています。
この沿岸域は、台風に伴う高潮や高波、海底地震による津波などの風水害にさらされやすい場所です。
一方で、沿岸域は海洋生物の貴重な生息空間であり、漁業や水産業が営まれ、船舶が航行し、海底鉱物資源の供給源にもなり得る経済活動の盛んな水域です。
しかしながら、地球温暖化の影響や、沿岸に立地している下水処理場や発電所などからの排水の影響を受けやすい場所でもあり、例えば不慮の事故により汚染物質の海洋流出が生じた場合、沿岸域はとても脆弱です。
沿岸域をまもることは我々の重要なミッションの1つであり、これらの問題の解決に向けて、海の波や流れに関する流体力学的な研究を行い、海域での物質輸送や拡散過程、海洋生態系へのインパクトの評価を行います。
そのために、スーパーコンピュータを用いた海洋流動シミュレーション、現地観測、衛星リモートセンシング技術などを統合して、複雑な沿岸海洋防災・環境問題に取り組んでいます。(内山研究室)



サンゴ礁の上に形成されたポケットビーチ
(沖縄恩納村の砂浜海岸)

地理空間情報 × 統計学:
よりよい社会へ

市民工学専攻には、社会基盤を整備し運用するための理念や方法・手順を研究するために、経済学や統計学・数理最適化など他分野の研究知見を取り入れることが不可欠です。その中でも我々の研究室では、地理空間情報、特に地理情報システム(GIS)と統計学を活用しながら、1)自治体の政策支援のための実証的研究や 2)最先端の統計理論に基づくモデル開発研究を行っています。前者については、例えば大規模小売店舗の立地と商店街活性化の問題や電柱地中化の効果計測といった身近な都市計画の問題から、発展途上国の交通計画の支援といった国際的な研究まで幅広いトピックを扱っています。後者については、「空間統計学」という日本では取り組む研究者が数少ない学問分野において、地理空間ビッグデータを活用しながら、統計モデルの開発や都市・交通分野への応用研究を行っています。(瀬谷研究室)



現地調査であつめた駐車場価格データ

OSVで世界中の
工事現場をより安全に

工事現場の事故防止や豪雨による斜面災害のリスク低減を目的として「光を使って安全・危険情報を原位置(On-Site)にリアルタイムで表示(Visualization)する」研究を推進しています。2006 年度に始まった OSV に関する研究活動には、その後、センサメーカー、測量、自動車制御、建設、コンサルタント、ベンチャー企業、国内外の複数の大学、研究機関などの 80以上の組織が参入しています。これまでに、OSV プロジェクトは学生の研究指導から企業との共同研究、研究成果の社会実 装(日本国内各地、海外ではフィリピン、インド、インドネシア、ベトナム、シンガポール、ラオスなどで適用例あり)までを総合的に包含する流れを現実化しており、人間環境の安全・安心化における新しい概念“On-Site Visualization”を国内的、および国際的に普及させるための活動を展開しています。(芥川研究室)



ニューデリーの地下鉄工事現場での
OSV(赤青の光)による安全管理

総合力で災害から
都市の市民をまもれ!

最近では豪雨に伴う水災害や土砂災害が増えてきています。災害から都市を守り、都市の市民の命を救うためには、旧来の枠を超えた総合的な学問の力が必要です。私たちはこれまでの水工学を拡張して、気象学、情報学、電磁気学を応用してレーダーを使って豪雨の発達をとらえ、豪雨の動きを予測して、それを住民の方々に伝えるような研究をしています。気象学では観測と数値計算によって雨粒 1 粒ずつの成長を追いかけて豪雨の発達や降雨量を正確に予測する研究に役立てています。情報学では理化学研究所計算科学研究センターと連携してスーパーコンピュータを使ったシミュレーションや、タブレットコンピュータを使った住民への情報伝達を行っています。豪雨災害で亡くなる人をゼロにする!のが研究室の目標です。(大石研究室)


浸水情報提供タブレットに映される浸水予測

レーダーでとらえた大阪湾から
神戸に進む豪雨の3次元の構造

将来世代に持ち越せない
課題の解決のために

生活に不可欠な電力をまかなうために、わが国では原子力を利用してきました。その結果、使用済みの燃料が蓄積し、これらを再処理したとしても発生する高レベルの放射性廃棄物を処分しなければならないという課題に直面しています。廃棄物を人間の生活圏から遠ざけ、地下深くに封じ込める地層処分が採られようとしていますが、放射性物質の拡散を抑えるバリアシステムについて、安全性を評価するための解析手法の構築が求められています。対象とする時間や空間のスケールの大きさもさることながら、地中で生起する様々な現象・シナリオを考慮に入れなければなりません。国内外の研究機関等と協働しながら、数理モデルの開発やシミュレーションを行い、将来世代に持ち越せない課題の解決に貢献しようとしています。(橘研究室)



地下水の浸潤によるベントナイトバリアの
変状予測シミュレーション